
第三回
暴力の排除
ジダンの頭突きが世界に衝撃を与えた。
サッカーの世界で最高峰のワールドカップ、しかもその決勝戦で起こった事件だった。
選手どうしの暴力事件はめずらしいことではないのかもしれない。しかし、この試合では起きて
欲しくはなかった。世界で20億以上もの人が注視している試合。20億の中にはサッカー選手を
夢見る多くの子供達もいる。そして、その暴力行為を行った本人はジダン。世界一のプレーヤー
として賞賛を集め子供達の憧れの存在であるジダン。
この試合に、この人には決してやって欲しくなかった蛮行。それが目の前で行われてしまった。
私も子供達にサッカーの指導をする際に幾度もジダンの華麗なプレーを参考にするように子供
達には話をしてきた。だからプレーヤーとしてすべての面でお手本であって欲しかった。残念で
しかたがない。
そもそも我々サッカーファンはこんなシーンを見たくてW杯をみているのではない。
最高の技術を持つプレーヤーがギリギリのしのぎあいの中で、最高レベルのプレーを見せる。
そんな試合を見たいのだ。口汚く罵り合って、挙句の果に暴力行為なんて低レベルのストリート
ファイトは、もうたくさんだ。
では、どうしたらサッカーのピッチから暴力行為を排除できるのだろうか。
今回の事件に至る伏線からその方法を探ってみたい。
ことの発端は、マテラッティ選手がジダンに抱きつき、シャツを掴むところだ。
サッカーでは抱く着くこともシャツを掴むことも反則だ。ペナルティーエリア内であればPKにつながる
反則のはずだ。
しかし、この反則でPKが与えられたところを見たことがない。審判が見ていても注意するだけで
PKはとらない。反則を取られないなら、DFはまたやる。いつもやる。そしてそれはいつしかDFの
スタンダードになる。ルールブックには反則と明記されているのに、ピッチの上では合法的なプレー
になっている。それが実態だ。
FWのプレーヤーにとってこの実態はつらい。抱きつきやシャツ掴みがOKだとゴール前でセンタ
リングのボールにアプローチするのが非常に難しくなる。ジャンプの瞬間に掴まれたりするとほとんど
高さを殺されてしまう。DFは本来は反則である技を駆使してくるのだからFWは大変だ。能力の高い
選手ほど多くの反則を受ける。反則技と戦うこととは、プロレスで言えば、椅子を振り回す相手に空手
チョップをしにいくようなものだ。まともにやったら悪役の勝だ。最近のサッカーで著しく得点が少ない
のはこのあたりのことが原因の一つになっているのだろう。
FWはこの反則し放題の現実を心底受け容れてはいない。いつも理不尽さを感じている。
何度も何度も本来は反則である行為を受けているうちに、ジダンのように一言文句を言うことも
あるかもしれない。そしてそれが暴力行為にまでエスカレートしたのが今回の事件だ。
やはり反則は反則なのだ。反則を止めさせれば暴力行為にいたる事件を減らせるだろう。反則を
止めさせるには罰を与えればよい。難しいことではない。ルール通りにやればよいのだ。
レフェリーが笛を吹かない理由はわからない。不可解だ。シャツを掴む行為などは、イエローカードの
対象といわれているのにほったらかしだ。何人かのレフェリー経験者に聞くとこんな答えが返ってきた。
『ささいなファウルでPKをとっていたらサッカーでなくなる』・・・・・
逆だ。ささいなファウルを野放しにした結果、ゴール前はサッカーでなくなりつつあるのだ。
レフェリーは良く考えて笛を吹いてもらいたい。
サッカーは紳士のスポーツと言われる。それは、ルールを守らなければサッカーにならないからだ、
と私は思っている。体をぶつけ合えばだれしも興奮する。そのときに冷静さを失い、ルールの中での
プレーが出来ない人間にはピッチに立つ資格がない。喧嘩の場ではないのだ。
それがいつしかレフェリーの不可思議な寛容さが原因で反則が横行し、ならず者と呼ぶにふさわしい
選手までピッチに侵入するようになったのだ。
この現実を一刻も早く是正して本来のサッカーにもどさなければならない。それができるのは罰の
執行権限を与えられたレフェリーだ。
FIFAも痛感しているはずだ。桧舞台で起きた蛮行。サッカーの恥部を全世界にさらしてしまったのだ。
もし今回の事件が今後のサッカーの方向修正のきっかけとなるならば、引退したジダンはまた別の
意味で評価されることになるかもしれない。そうなることを祈りたい。
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