Soccer Cafe


第四回
柳沢論(へなぎの悲劇) 

 ワールドカップのクロアチア戦でのスーパークリアはまだ鮮明に記憶に残っている。
 いったい彼はどうしてしまったのだろう。
 柳沢が走力・センス・スピード、どれをとってもJリーグではトップレベルの選手であることを多くの
サッカーファンは認めている。
 代表戦でだって過去に何度も素晴らしいプレーをみせてくれた。評価されてセリエからもオファーが
きたほどだ。
 なぜ柳沢はサッカーの神様から見放されてしまったのか。私なりに考察してみたい。

 トルシエが日本代表監督になったころからよく耳にする気になる言葉があった。
 ”ポストプレー”
 ポストとは街角に立っている、あの赤い奴のことだろうか。
 手紙を確実に預り、集配員に確実に渡す役割をこなす赤い奴。
 ボールをいったん預り、味方に渡す役割をこなすポストプレーヤー。(赤くなくてもいい。)
 トルシエはトップの選手に徹底してポストプレーを求めた。
 柳沢はその求めに応じ、無難にその役目を果たした。
 センターFWを張ったことのある人ならわかるだろうが、最前線は非常にプレッシャーが強く、なかなか
自由にプレーをさせてもらえない。ところが前に行くと見せかけて少し後にポジションをとると、
不思議なくらいフリーでボールに触ることが出来る。
 柳沢は監督からの評価を得るために、少しでも試合中に多くのポストプレーをすることを
自らに課した。そのために何度も何度もいったん後に下がりフリーで無難に役割をこなした。
そして彼のポジションは繰り返しの中でいつしかゴールへ向かうことがなくなり、わずかずつに
一列下のようなところに下がっていった。得点は減っていった。シュートがほとんどなくなった。
 
 ここで、通常FWに求められるプレーについて、今回のワールドカップで通算の得点新記録を
作ったロナウドを例に考えてみよう。
 彼は90分の試合中、ほぼ80分は歩いている。オフサイドラインあたりをうろうろしている。
 しかし、常に狙っている。味方からのスルーパスの受け手になるべく狙っている。中盤で味方が
もって前を向いたとき、ロナウドは豹変する。太めの体はカモフラージュだったかのように鋭く相手の
裏へ抜け出す。エネルギーはたっぷり充填してある。完璧なボールコントロールでDFの進路を
ふさぎながらゴールへまっしぐら。キーパーとの1対1は天下一。はずすことなんて微塵も思わない。
得点をとるのは当たり前。あとは人差し指を突き立ててゆっくりハーフラインまで戻るだけだ。
 彼のプレーは徹底して点を取ることに特化している。点をとって評価されるポジションだからこれが
本来のFWなのだろう。ロナウドはFW本来の仕事、点をとることで世界一の評価を得たのだ。

 90分をすべて自らが得点することだけに費やすロナウド。
 献身的に繋ぎ役に徹する柳沢。
 選手登録には同じ”FW”の二文字が書かれていても二人は全く違うプレーをしている。
 サッカーの結果は得点の多いほうで決まる。だから点をとれるロナウドは一流。得点をめったにあげない
柳沢はいつも敗戦の責任を負うことになる。ロナウドの20倍は走っているのに・・・・。

 柳沢をどう評価すべきなのだろう。
 ジーコは柳沢を高く評価していた。そして自らの仕事の集大成であるW杯において、柳沢の
骨折からの復帰を心待ちにしてまでこだわった。柳沢を日本一のFWと評価したからに違いない。天才プレーヤー
ジーコの目には日本一のFWと映ったのだ。
 もちろん日本にロナウドのような選手がいれば違う選択をしただろう。
 ジーコは次善の策としてFWにポストをやらせて、2列目あたりの得点に期待したのだろう。
 うまくいったときもあった。だが日本は中村の?ゴールのみのさみしい予選敗退。
 はっきりみてとれたのは、柳沢には得点の気配がなかったことだ。
 セリエに行ってもノーゴールだった。代表の試合でもほんとご無沙汰。
 そしてW杯では絶好のチャンスにも体が反応せずに大失態。
 もうだめだ。
 柳沢はFWではなくなってしまった。点をとることを忘れてしまった。
 同情の余地もある。監督の目指す戦略の犠牲となったのだ。
 もう全盛期も過ぎてしまったようだし、やり直しは厳しい。FWとしてではなく中盤のプレーヤーとしてなら、
まだまだいけるかもしれない。しかしもう代表はあきらめた方がいい。全世界のサッカー関係者があのプレー
をみてしまった。誰が監督になってもあの印象は強すぎる。鹿嶋の星を目指すがよい。

追記:
2008年から柳沢はJ2の京都でプレーすることになった。
スポーツニュースで彼の入団会見を見た。
『アシストとか得点にからむプレーを多くしたいです』
これが柳沢の発言内容。
自分が得点をする、とは言わない。彼らしいといえば彼らしい。
だけど、J2で点を取れなかったらもうあかんで・・・・・・・。

 【教訓】
 若いFWにポストプレーを強要してはいけない。
 あくまでも点をとることを最大のテーマとして育てるべし。

 
  
HOME  サッカーカフェ第一回第二回第三回